読書感想文(1) 煙か土か食い物

2005年1月23日 日曜日

九十九冊の読書感想文!まず一冊目です。

煙か土か食い物 舞城王太郎

レビュアー: 宮本・ザ・ニンジャ  甲賀の郷

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 暴力的で破壊的な文体にのって、破滅的な主人公が疾走する暴力小説。「言葉の暴力」という表現があるが、これはまさしく「文章の暴力」だ。

 実際のところ、僕には暴力への怖れと同時に暴力を使いこなすことへの憧れがある。多分、男の子なら多かれ少なかれその傾向はあると思うんだけど、この主人公はそれを完全に解放して暴れまくる。スティーブン・セガールのように手が出る。ひょっとすると、推理小説なのに頭脳よりも暴力のほうが役に立ってるとさえ言えるかもしれないが、そんな主人公よりもさらに超暴力の血をもつ兄がいて……。

 福井の片田舎で起きた連続傷害事件と、失踪した兄、裏社会の影、密室事件、全てが複雑に絡み合い、最後にはちゃんと一点に収束する。というか一発目にミステリを選んでおきながら、僕はトリック自体にはそれほど興味はないんだけど、筋書きと人物だけで一気に読ませられてしまった。文章が主人公の“インソムニア・ハイ”と同調して、現実感を書いたまま加速していく感じ。主人公がサンディエゴから、現実感を欠いた福井の惨劇に飛び込むのと同様、読者は自分の現実から、本の悪夢に巻き込まれるのだ。で、読後感も夢を見た後のようにあんまり記憶に残らない。

 途中、おそらく自分へも向けたと思しき“小説家の心得”があって、なるほどと思わされる。この人は村上春樹みたいなのが書きたかったけど、売れないからミステリに転向したのだろうか。とにかく自分の人生を切り売りできる人なんだろう、きっと。暴力や外科手術の描写にちゃんとリアリティと痛みがある。あとこれは完全に余談なのだが、「街中の不良が知ってる一郎、二郎、三郎の暴れん坊兄弟」と言われるとついつい『エリートヤンキー三郎』を思い出してしまう。気を抜いて脳内配役を大河内一家にしてしまうと、ギャグになってしまうので注意。

★★★★☆—–


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