読書感想文(14) 文章教室

2005年3月19日 土曜日

文章教室 金井 美恵子

レビュアー: 宮本・ザ・ニンジャ
 文章教室、というタイトルだが、“文章の書き方”的なハウツー本の類ではなく、カルチャースクールの文章教室に通う主婦が織り成す生活と心情を描いた小説である。ここで金井美恵子と九十九式の取り合わせに、ニヤリとした人もいるかもしれない。「多分あなたはこの辺の作品から」と友人に薦めてもらったままに読んだのだが、これが面白かった。
 平凡な主婦、冴えない夫、愚鈍な娘、売れない作家、凡庸な批評家などなど、出てくる人物が誰もかれもこの上なくフツーで、しかし彼ら自身は自分が凡庸だなどとはこれっぽっちも思ってなくて、みんながみんな自分だけが稀有な存在で、特別な体験をしているかのようにふるまい、ハムレットのように懊悩する。そこが読んでいて可笑しくもあり、いじましくもある。しかし笑ってばかりもいられなくて、ときに身につまされる。誰だって自分の人生は特別だ。恋愛も仕事も、当人にとってはいつだって自分が主人公の一大事である。どんな未来が訪れても、それがかなり普通でも。
 そんな主人公感が、主人公が文章練習のために書いている日記ノートからの引用文と地の分が不可分に絡み合うことによって表現され、読み手はいつしか登場人物に自己を投影してしまう。実験的な構成に見えて根は正統。舞台が舞台だけに文壇ギョーカイネタも多く、メタテキストサイト論を見るような趣。
★★★★☆—–

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