五重塔 幸田露伴
レビュアー: 宮本・ザ・ニンジャ感應寺に五重塔を建築する計画が持ち上がった。その建築、設計を担当する栄誉をかけて、流れ者でつまはじきもの大工と、皆に慕われる気風のいい棟梁が対立する。男と男の意地のぶつかり合い、職人文学の傑作。話の筋もいいのだが、何よりも文章自体のリズムが良く、読んでいて小気味が良い。文語体で書かれているし、一文、一文がやや長いので最初は多少戸惑うが、慣れればサクサクと読み進められる。名文。
完全な余談だが、週刊アスキーの進藤アナの対談記事で、斉藤孝がこの作品を絶賛していた。曰く「今でも折に触れて読みます。」と。それを受けた進藤アナが「私は小学生のときに読みました」と言うと、斉藤孝は「さすがに小学生じゃピンと来なかったんじゃないですか?」とやんわり驚いていた。どうしてこんな2秒でバレる嘘をつくかね。当時の尋常学校生ならまだしも、30年そこそこ前の小学生が旧字で文語体の文章を読んで理解できるわけがない。だってある章の出だしの文章なんてこうだ。
紅蓮白蓮の香ゆかしく衣袂に裾に薫り来て、浮葉に露の玉動ぎ立葉に風の軟吹ける面白の夏の眺望は、赤蜻蛉菱藻を嬲り初霜向ふが岡の樹梢を染めてより全然と無くなつたれど、赭色になりて荷の茎ばかり情無う立てる間に、世を忍び気の白鷺が徐ゝと歩む姿もをかしく、紺青色に暮れて行く天に漸く輝り出す星を背中に擦つて飛ぶ雁の、鳴き渡る音も趣味ある不忍の池の景色を下物の外の下物にして、客に酒をば亀の子ほど飲まする蓬莱屋の裏二階に、気持の好ささうな顔して欣然と人を待つ男一人。
昔の作品は安めなのでありがたいですね。というかまあ、こんくらい昔になると、青空文庫でタダで読めてしまうんですが。→
青空文庫:五重塔★★★☆☆