マジでグリーンの人になった(3)

2005年8月24日 水曜日

1話 / 2話 / 3話 / 4話
(あらすじ:マジレンジャーショーに出演する
ことになった宮本。馴れないステージに戸惑うまま、全くいいところなしで午前の部は終わり、握手会が始まるのだった! →第一回 第二回

マジ衣装について

 ショーが終わると、颯爽と走って楽屋テントに駆け込む。変身スーツを着て人前に出ている以上、ステージ上でなくとも常にキビキビと、ヒーロー然とした動きをしていなくてはならないのだ。実際は暑くて倒れそう、というのもある。変身していると、本当に暑い。今日のN市は快晴で、日中の気温は34℃を超えている。Tシャツ一枚でも暑いくらいなのに、ヒーローはものすごく暖かい格好をしている。

 まず、下にスパッツや全身タイツを着ている。これは衣装に汗を染み込ませないためと、下着の線などを見せないためである。その上にナイロン、ポリウレタン製の密封性の高い衣装を着る。背中にチャックのある、ツナギ状のものだ。さらに、面に髪の毛を挟まないための“下面”と呼ばれるマスクをすっぽりとかぶっている。

 そしてフルフェイスの面。頭頂部にちょうつがいがあり、前と後ろで2つに分かれた形状である。中には発泡スチロールのブロックが貼り付けてあり、衝撃吸収と位置固定の役割を果たしている。かぶってみると、思った以上に視界が悪いことに驚く。剣道の面よりも暗く、空手の面よりも息苦しい。早くも酸欠気味だ。

 面の正面に空いた穴を通して見ているため、視界が暗いのはもちろん、見える範囲も相当せまい。自分の正面にたった人間の、鼻の下からみぞおちのあたりまでしか見えない! これで立ち回りをするのだから、並大抵の労苦ではない。

 案の定、未経験の宮本グリーンはほとんど立ち回りが出来ず、ブランケンにどつき回され、転がり、ボロボロの出来だった。戦闘員より弱いグリーンであった

 テントの中で、面だけを取って5分ほどぐったりする。外では衣装を脱いだブランケン様が握手会の客を並ばせている。

「よし、準備できたぞ」
 ブランケン様がレンジャーを呼びにきた。
「待て。変身だけ入れてこう。」
 そういってブランケン様はワイヤレスマイクを手にとると、
「魔法変身!マージ・マジ・マジーロ!」
 と叫んだ。器用な人である。

マジ握手会

 握手会には、250人のちびっこが列をなしていた。最初は立って並んでいたが、メインの客層が4歳くらいなので、威圧感を与えないために片膝をついて握手をすることにした。ずっとしゃがんでいると足が痛くなってくるが、仕方ない。子供とコミュニケートするときは、子供の目線になるべき、というのは俺の持論だ。こども嫌いだけど。

 握手会には、個別ファンの子供が沢山いた。全身を推しカラーで統一している子、なりきりセットで変身している子、お面だけかぶってる子、推しレンのフィギュアを持っている子。そんな中でも、グリーン推しの子が意外と多かった。これがアニキ効果か? 俺はちょっと嬉しくなってとても丁寧に握手をしたが、なぜかグリーン推しの子たちの顔は、一様に曇っている。

「グリーンよグリーン。嬉しくないの?たっくん。」
「…だってよわいんだもん
 俺は冷水を浴びせられたような気がした。そうだ。さっきの俺ときたら、全くいいところがなくて、ピンクやレッドの足を引っ張っていただけだった。

「ほら、グリーンよ。もっと頑張れって言ってあげなさい」
「……。」
 グリーン推しのみんな、すまん。ふがいないお兄ちゃんですまん…!

 握手会の後、第一部と第二部の間の休憩時間に、ブランケン様に謝った。
「すみません、全然手が入ってなくて…」
「俺のところはいいけどよお、お前だけ全然戦ってねえじゃねーか。ちゃんとバトルしろよ」

 ビデオを確認して、ブランケン様の言っていることがわかった。僕が今まで練習していたのはテレビサイズだったため、やられてカメラからフレームアウトした後はぼーっとしてても良かった。しかし、ステージ上はそうはいかない。最大でも9人しか上がらないステージの、主役のうちのひとりなのだ。常に気を張って、目の前に敵がいるときの動きをしていないといけないのだ。モーニング娘の気持ちが少しわかった。俺の演じたグリーンには、TVでの頼もしさやたくましさのカケラもなかった。

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 もうダメだ。やっぱりこんなの無茶だったんだ。俺はヒーローなんかになれない。もう帰ろうかな…。午後の部は誰かにかけもちしてもらって…。

 着替えてテントを離れ、弁当にも手をつけずに木陰でひとり打ちひしがれていると、親子連れが通りかかった。子供は緑色の服を着ていた。
「ほら、2回目が始まるまであと1時間もあるんだから。もう帰るわよ?」
「だってグリーンが…」
「グリーンはもう握手もしたじゃない」
「ぜんぜんかっこよくなかったよ」
「だからもう帰ろう。ね?」
きっとおなかがいたかったんだよ。ほんとのマキト兄ちゃんはあんなんじゃないもん!次はきっとかつやくしてくれるよ!!

 俺は泣いた。

(つづく!)
最終話


この記事の評価は:

うーん…いまいち…ふつうですかなり良い素晴らしい (1 投票, 平均値/最大値: 5.00 / 5)
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コメント / トラックバック 20 件

  1. 匿名 Says:

    ちょっと、おもろい。

  2. 宮本 Says:

    ありがとう!

  3. 匿名 Says:

    子供なんてぶっ飛ばせばいいじゃない

  4. 匿名 Says:

    すげぇ泣ける。
    こういう話大好き、頑張って!

  5. Number Says:

    俺も泣いた。そして笑った(w

  6. 匿名 Says:

    しまった、胸にぐっときてしまった。
    宮本さんガンバレ。
    自分の見た某地方のマジレンショーでは
    マジレッドが下腹ぽっこり体型で
    一人だけ汗染みがものすごくって別の意味で泣けた。

  7. 津短 Says:

    頑張れ!グリィィィィィィィンンンン!!!!!

  8. Says:

    くそお…負けるなマジグリーン!

  9. 青島玄武 Says:

    能『安宅』のツレの二人目をやったときも、立ち位置とか型付け(振り付けみたいなもの)大変で、「モーニング娘。って、こんなんなんだなー」と思ったぐらいです。(参照は下記URL)

    http://www.nohbutai.com/contents/05/01a/1ataka.html

    (ページの下の写真の前から二人目に相当)

    マジグリーンも、マジで大変だったでしょうね。
    能装束も、着るだけで10?15kg相当ありますから、お気持ちは痛いほどわかります。(苦笑)

  10. 匿名 Says:

    なんていいお話なんだろう……読んでるこっちもじーんときてしまいました。
    この後のお話も楽しみです!

  11. nonomiracle Says:

    うっ…うっ…グリーンのおにいちゃんがんばって!!涙なしでは読めません

  12. nekoprotocol Says:

    おにいちゃん・・・

  13. nibe Says:

    今度ヒーローショー見に行ったとき、オレ…泣いちゃうかも

  14. 匿名 Says:

    頑張って・・・!

  15. 宮本 Says:

    >>4
    応援ありがとう!(ガシッ)

    >>Numberさん
    ありがとうございます。ご無沙汰です。マジレンジャーは涙と笑いの人情ヒーローです!

    >>6
    ありがトン!
    レッドが中年はつらいなぁ…! 怪人やってればいいのに。
    今のレンジャーには3枚目キャラがいませんからねえ。

    >>津短くん
    ありがとォォォォオオオ!

  16. 宮本 Says:

    >>とさん
    天空聖者よ、我に力を!

    >>青島玄武さん
    おお、伝統芸能。(「ツレ」でツンデレを連想してしまった)(馬鹿)
    これはギュギュっと混み合ってて大変そうですねぇ。

    >>10
    ありがとうございます!このままじゃ終わりませんよ!

    >>11
    僕も嫌いなんですけどね子供…。あいつら馬鹿だから…。僕のこと本物だと信じて疑わないんですよ…!

    >>12
    マジで決めるぜ!

  17. taigo Says:

    うぅ、ちょっと泣いた。
    子ども関連話嫌いなのに。

  18. taigo Says:

    宮本ザ・ニンジャ ヒーローとは 第三話

  19. 匿名 Says:

    やばい感動した

  20. migiri Says:

     マジに泣ける第3弾。

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