あの日の気持ちは

 松浦亜弥の新曲『100回のキス』は、良い。
 重戦車のごとく疾走するリズムに、超絶技巧的なリフ。ソロではジョージ・リンチばりのカミソリギターが耳をつんざき、そこに魂がほとばしるかのような松浦のシャウトが覆い被さる、無く子も黙るヘヴィメタル・ナンバーである。
 …というのは勿論ウソなんだけど、すこぶる良い。
 まず、メロディがとても良いのだ。どこか寂しげでありながらキャッチーな美しいメロディが、すっと心に染みこむ。サビではよく練りこまれたコーラスワークが曲をひきたてるし、全体を通しての男声と女声のコーラスのバランスも良い。

 4枚目となるこの曲の持つ意味は大きい。
 今までならB面に収録されていたような、しっとりとしたミディアムテンポの曲である。では新機軸に挑戦かと思いきや、実は、この曲は幻のデビュー候補曲だったのだ。
 しかし、デビュー曲にはやはり元気で明るい、ポップな曲が使用された。その手の歌は、概して歌いやすいし売りやすいから。
 そして100回のキスの発売は、松浦にこの曲を歌いこなす実力がついたことを物語っている。

 もう一つ、見逃せないのは歌詞の良さだ。

心まで入らないで 別に隠してる訳じゃないよ
誰かみたいに 面白く話せないだけ
それ以上のぞかないで 別にイヤだって意味じゃないよ


 この歌は、女のコの揺れ動く心情を歌ったものではあるのだろうが、それは決して少女期に特有のそれではない。
 相手を理解したい・されたいという期待と同時に、他者に心の中まで入られる事に対して感じる恐怖、この境界線のようなものは、誰でも感じたことがあると思う。何人にも冒されざる聖なる領域。心の光。
 そう、ATフィールドは、誰もが持ってる心の壁なんだ。 2001年 11月30日(金)
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