クリステンセン

 僕がバーテンダーをしていると思っている人もいそうだけど、アバウトにも書いてあるとおり実際はバーテンダー見習いである。まだカウンターの中に正式には立たせてもらえない。もう少しカジュアルなショットバーだったらそろそろシェイカーを振っているのかもしれないけど、僕のいるバーはやたらオーセンティックというか、マスターが非常に職人的こだわりのようなものを持っていて認めてくれないのだ。
(ニュアンス的には、SWニューエピソードのジェダイ評議会のようなもので、僕はヘイデン・クリステンセンのような感じとイメージしてください。「僕はマスターよりも知識も技術もあるのに!認めてくれない!僕に嫉妬しているんだ!」)

 しかしとうとう転機が訪れた。まだ人気の少ない時間帯にオーダーが3つ入った。「作ってみるか?」と先輩のジェダイが言った。
 「やります。相手が客なら、人間じゃないんだ…」
 「作るぞ…作るぞ…。作るぞーー!」とアムロばりの気合を込めて作り始めたんですが、レミーの水割りはいい。(飲み方の是非は別として。)カンパリオレンジもまあいい。しかし、3つ目は1週間前に導入された店のオリジナルカクテルだったのだ。最初の2つを作りながら何とか思い出そうとしてみるが、出てこない。

 後で、15分に渡って訓示をたれられた。しかし僕は悔しさのあまりほとんど聞いていなかった。壁を殴りつけて家に帰ってしまいたいくらいだった。それは不甲斐ない自分に対する怒りであったりもしたのだけど、普段動きに乏しくフラットな感情生活を送っている僕にとっては、その自分のうちに生じた悔しさ自体が驚きだった。まだ僕にもこんな感情が残っていたんだ。この負の感情を、自分を高めて行くための正のモチベーションに転化できればいいのだろうなあ。

『恐れは怒りに、怒りは憎しみに、憎しみは苦痛へとつながる』(ヨーダ)
2002年8月25日(日)
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