犬の散歩をしていたら女の子に話しかけられるイベント

2004年7月23日 金曜日

 夜中に公園で犬の散歩をさせていた。散歩をさせていた、といっても、リードをつけて歩いていたわけではなく、公園まで連れて行って適当に放していただけである。終電間際、駅のほうからチラホラと人が歩いてくる時間帯だ。

 しばらく犬のマロンを放っておいて、1人で棒術の稽古をしてたら、気付くと姿が見えない。慌ててあたりを探してみると、公園のはずれに女の人がしゃがんで、マロンをなでていた。おそらく飼い主の姿が見えなかったので、迷い犬か何かだと思ったのだろう。そこに思いがけず飼い主である僕が現れたというわけだ。

「え、と……。」「こんばんは。」

 無視して通り過ぎるにはあまりにも立ち止まりすぎた。どちらからともなく挨拶をかわした。そのまま何となくお互い立ち去りがたく、彼女は遠慮がちに話しかけてきた。

「ワンちゃん、何歳くらいなんですか?」

「もう18歳になりますね。あちこち弱って大変ですよ」

「そうなんですか! でもいいですね、ちゃんと歩いてて。ウチの犬はもうまともに歩けないんです」

「あなたも犬を飼ってるんですね。何歳くらいですか。」

「16歳なんですけど、私が小1のときからずっと一緒で…。」

 そう言って前髪をかきあげた彼女からは、夜風に乗ってふんわりといい匂いがした。

「水も口を開けて飲ませてあげないといけないし、歩けないから私が抱いて公園まで連れてくるんです」

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「それはもう介護ですね。大変だな。」

「そうなんですよ…。」

「マロン、って、こいつの名前なんですけど、耳が遠くなってて、呼んでも聞こえないんですよ」

「あらそうなの? マロン、マロン?」

 彼女はチッチッチッ、と舌打ちをするが、マロンは気付かずふんふんと地面のにおいを嗅いでいる。

「寝てるときに呼んでも起きないから、たまに死んでんじゃないかとヒヤヒヤします」

「アハッ、私も、この暑さでぽっくりいっちゃわないか心配です」

「もう歳が歳だからね」

「ええ…。」

 マロンはぼんやりとあさっての方向を眺めている。彼女がふっと立ち上がった。

「じゃあ…」

「ええ。」

「おやすみなさい。」

「お気をつけて。」

 犬の散歩をしていたら、夜の公園で美少女に話しかけられる、などというマンガかエロゲーみたいなイベントに遭遇しながら、チャンスをものに出来ませんでした。フラグが立ちませんでした。おっかしいなぁ、どこで間違ったんだろう。

 多分、最後の「じゃあ…」の前に何かしら言うべきだったんだろう。でも、今となっては何が正解だったのかよくわからない。

●考えられうる選択肢

A.もう遅いし、不審人物がいると困るから、家の近くまで送っていくよ。

B.君の犬にも会いたいな。いつも何時に散歩させてるの?

C.やらないか? (ジーーッ)

 どれが正解だったんでしょうか……。

 未だにわかりませんが、いずれにせよ、夜の公園で汗だくで棒を振り回している男(=俺)こそ不審人物なのは間違いありません。 —–


この記事の評価は:

うーん…いまいち…ふつうですかなり良い素晴らしい (まだ評価されていません)
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コメント / トラックバック 2 件

  1. Says:

    うらやまけしからん!いやけしからんくはないか。Cの回答はクソ受けたw

  2. 宮本 Says:

    どうもです!
    けしからんくはないでしょうw

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