ディズニーシープレビュー (前)
「おい。なに寝てんだよー。おきろよー。」
小悪魔の声で僕の平和な睡眠が破られて、時計を見るとまだ朝の9時。眠ってからまだ3時間しか経ってない。
僕がうぅ、とうめいてなおも布団にくるまろうとすると、ボスっと物体が降ってきた。悪魔がボディプレスを仕掛けてきたようだ。
「痛い…重い…!」
「わたしがおきてるのに、なに寝てんだよー。」
体に覆い被さった布団と妹をまとめて除けると、僕は寝ぼけ眼で起き上がった。
「一体、なんだってんだよ全く…。」
「あー。やっぱわすれてる。今日はディズニーの日でしょー!」
ふくれっつらの妹を見ると、ご丁寧に頭はミッキーマウスヘアで、完全に出かける態勢になっている。
あぁそうか。今日だったっけ。
先日、ディズニーシーのプレビューチケットが送られてきた。9月のグランドオープンに先駆けて、報道関係の取材に限って入場を許すプレミアチケットであ る。雑誌関係の仕事をしている友達から、2枚余ったからおまえにやるよ、と連絡があったのが数日前だった。別にいらないと断ったのだが、差出人はあいつの 名前になっている。
せっかくだから気になるあの娘でも誘ってみようか。チケットを机の上に置いて誰と行こうか思案していると、背後に人の気配を感じた。
「なにそれ?」
あっと思った時には既に遅く、チケットは2枚とも妹の手の中にあった。
「あーーー!でぃずにーしーだっ!」
満面の笑みを浮かべて僕の顔を覗きこむ。
「すごいすごい!これ、まだ開いてないのに。ねぇ、のの のために取ってくれたんでしょ?これ!」
ここで「いや違う」なんて言える冷血漢がこの世に存在するとは思えない。大体、そんな事言ったらこの後どんな悲劇が待ってるか知れない。僕は観念して言った。
「あ、あぁ、もちろんそうだよ。」
と言う訳で、僕達二人はJR舞浜駅に降り立った。最近改修工事が済んだようで、随分小奇麗というかディズニー的世界の延長のような造りになっている。
「あ、こっちこっち!こっちから、モノレールがでてるんだよ!」
妹に引っ張られるようにして改札から出て左に向かうと、イクスピアリの横に確かに駅のようなものがある。
「お前、良く知ってるなぁ。」
「ジョーシキだよ。だってディズニーシーってテレビとか本とか色んなところで紹介されてるよ。」
でもまだモーニングの中でも誰も来て無いし、自慢しちゃおう、とゴキゲンな妹を見てると、偶然とは言えいい事をした気になってくる。
モノレールに乗って見ると、つり革はミッキーの手、窓の形はミッキーの顔、所々にディズニー人形の飾られたディスプレイがあり、良くここまで作りこんだものだな、とBGMの流れる車内で僕は素直に感心した。妹はつり革欲しい欲しいと無邪気に喜んでいる。
このモノレールは、JR舞浜駅からディズニーランド、ディズニーシーとホテル群をぐるりと一周して戻ってくる、一方通行の路線である。
片道は200円で、1日券は500円。外角の方に見えるホテルの立派さはちょっとしたものだが、埋立地に突然出現した建築群を見ていると僕の頭の中には「巨大資本」という言葉がぐるぐる。
「東京ディズニーシー・ステーション」で降りると、まず目に入るのは巨大な地球を模したオブジェと、擬似ヨーロッパ建築。
僕はこの種のアメリカ的ヨーロピアンが嫌いで、(しかもこれはアメリカ的ヨーロッパを模倣した日本、2重3重に駄目だ)思わず苦笑いしてしまうのだが、妹は「でっかい地球に愛がある」を口ずさみながら素直に喜んでいる。
でっかい地球の前で僕に写真を取らせると、何乗ろうか何乗ろうか!と今すぐにでも駆け出しそうな勢いである。
ここは「メディテレーニアンハーバー」。ロマンティックな南ヨーロッパの港町、だそうだ。確かに港やガリオン船など、大航海時代風の空気が上手く演出されていて、流石にちょっと感心してしまう。
海の向こうに見えるのはプロメテウス火山、ディズニーシーのシンボルである。微妙な植生の生え具合や質感など、どう見ても火山である。
「おいおい、埋立地に何時の間にかお山を造っちゃってるよ!」
「ほんとだー!火山だ火山だ。」
妹によると、あの火山は日に何度か噴火するという事である。なんと危険な。来場客と近隣住民の安全管理はどうなっているのだろうか。
僕らは、蒸気船「ディズニーシー・トランジットスチーマーライン」に乗って、「ポート・ディスカバリー」に行く事にした。
バレるから止めとけと言っているのに、妹は船の欄干から、岸にいる人に手を振ったりしている。それにしても、平日で一般公開はまだだというのに、割りと人が多い。TVクルーらしき人もたまに見かけるが、あれに捕まったら大変だ。注意しよう。
その名前からも解る通り、ディズニーシーは「海」をキーワードとする7つのテーマ世界によって構成されている。7つの海、という訳か。
僕らが到着した「ポートディスカバリー」は、時空を超えた未来のマリーナ、だそうである。ここは
早速「おなかすいたー」という妹に、「シーサイドスナック」でイナズマ型のお菓子を買ってやる。
そして本日一つ目のアトラクション、「ストームライダー」に試乗。これは「スターツアーズ」タイプの客席が動くシアター形式のものだったけど、「ス ター~」に比べるとちょっと物足りない。Gの掛かり具合や世界観の演出に難点が。まぁ「スターツアーズ」は最初からスターウォーズというゲタを履いてるか らずるいとも言えるけど。
ちなみにこれはちょっと濡れる(ネタバレ)ので、冬に行くとちょっと寒いかもなぁ。
妹は素直に興奮したり叫んだりしていたので、一応おすすめしておきます。
広告