事情聴取
常連客が、他のバーの若いバーテンダーの話をしていた。
「彼は、シェイカー振るのは上手いんだけど、話が上手くないネ」と。
いわく、その彼は自分の話ばかりしてしまうそうだ。
「挙句の果てには自分の苦労話なんかしちゃってさ。誰もそんなの聞きたくないよ」
人は何を求めてバーに来るのか。
一杯の酒、ひとときの安らぎ、友との語らい、バーテンダーとの会話…。色々あるだろうが、この常連客は一杯の酒と同時に、会話も求めているように感じられる。しかしバーテンダーの話など聞きたくないという。これはどういうことだろう。
つまり、この人は話したい時に自分の話をしたいだけで、相手の話は別にどうでも良いのだ。だがこれはバーという空間だけの話ではない。
話し上手より聞き上手。人は多くの場合、興味深い話を聞くよりも、自分の話を興味深く聞いてくれる相手を求める。
その辺の機微が解らないのは、そのバーテンダーの若さ故の過ちなんだろうな、と思ったが、そんな感想をわざわざ言う事自体が己の若さ故の過ちとして苦笑に付される事が予想されたので、思っただけで口には出さなかった。認めたくないものだな。
インターネット、及びテキストサイト村というのは「聞き上手よりも話し上手」志向の人が集まる村なのかな、と思った。
人のサイトを巡回して読むよりも、自分のサイトを更新して人に読んでもらう事に楽しみを見出す人達。あるいは現実世界で聞き役に徹している為、話たいことが鬱積している人達。
僕は「聞き上手」では無く、自分の思考が頭に渦巻いているけど、「話し上手」というほどそれを言語化して面白おかしく話すことも出来ない。できれば「書き上手」にはなりたいけど、そこへ至る道はまだまだ遠く、険しそうだ。
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四つの「上手」の中で、「読み上手」が一番楽しいと思う。
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