対決レビュー(2)

2003年4月22日 火曜日

モーリvsTENDER

 上田和男と毛利隆雄。この名前は、BAR遊びに興味のある人間なら知らぬ者はいないだろう。戦後日本の洋酒文化に大きな足跡を残した、BARの鉄人達である。野球で例えると「王と長島」とでも言おうか。
 実はこの2人、歩いて2分の至近距離に店を構え、現在でも好敵手として腕を競い合っている。そこで向学のため、バーテンダーの後輩と出かけたのだが、何せそこは銀座のBAR(!) 高額のため、相当財布が軽くなった。


【西】 BAR TENDER
テンダードアがぶ厚く、重い。実際にはそれほど力を入れなくても開くのだが、人を寄せ付けぬようなある種の威厳が宿った扉なのだ。飲み慣れぬ客や冷やかしの酔漢は、ここで回れ右をするに違いない。
しかし実は、この扉はBARにとって実に重要な舞台装置となる。扉を一枚隔てればそこは別世界、そんな隔絶された空間を演出するのがBARの扉の役割であり、ここはその点パーフェクトに近い。
店に入ると、自然と背筋がピンとする。客は誰しもいずまいをただし、バーテンダーはあくまで調合する酒の完成度にこだわる。そんな適度な緊張感の中で飲むのも心地よいものだ。(後日、「まさかシティコーラルは飲んでないよな?」と先輩に言われた。ベタでごめんなさい、最初にオーダーしました。)

【東】 モーリバー
モーリ入り口の「毛利」と毛筆で書かれた看板に意表を付かれる。店内が意外と明るい。適度なにぎやかさと、従業員の笑顔。毛利のネームバリューで、重厚な店構えを予想していた者は、ここで肩透かしを食らう。だが、悪くない。気楽に飲める雰囲気だ。その気さくさたるや、カウンターの中でバーテンダーが水やコーヒーを飲んでいるほどだ。もっと夜がふけると、酒も入るらしい。
しかし、仕事に対する姿勢は真摯だ。ここではなんと、ドライジンのテイスティングをしていた。毛利氏のマティーニに合う、雑味の無いクリアなジンを選出するのだという。運良くその日は、その毛利氏自身の手によるマティーニを飲む事が出来た。すき通っていた。
ちなみにここにドリンクのメニューは用意されておらず、それでも頼むと代わりに毛利氏の著作が出てくる。


 この2軒に優劣は付けられない。それでもどちらかを勝者にするとしたら、「BARに何を求めるか」という単純な問題に尽きると思う。ぼくはTENDERの方が好きだ。あまりお高くとまったBARは肩が凝るし腹も立つけど、たまに行くBARならあのくらいの適度な緊張感は心地よい。バーテンダーもあまり馴れ馴れしくせず、客も節度ある酔い方ができればいいと思う。
 それにしてもぼく如きが判定をくだしちゃっていいのだろうか。まぁいいのである。今のぼくはバーテンダーではないのである。でもモーリバーも良い店だったのである。従業員がみな毛利氏をとても誇りに思っている、というのが伝わってきて、ほほえましい気分になったのでR。

ハードシェイクでTENDERに軍配

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