読書感想文(18)(19) 山田風太郎 八犬伝
2005年6月24日 金曜日
八犬伝(上) (下) 山田 風太郎
レビュアー: 宮本・ザ・ニンジャ
言わずと知れたわが国を代表する伝奇小説のさきがけ、『南総里見八犬伝』。だがそのモチーフやあらすじは知っていても、意外とちゃんと読んだことはないという人も多いのではないだろうか。まず本書は、上下2巻でコンパクトにまとまっているので、そうした人にも勧められる。
また本書は、章ごとに虚の世界と実の世界が交代で進行していく。虚の世界は八犬伝の世界、そして実の世界は滝沢馬琴その人の世界なのだ。そもそもこの作品は、滝沢馬琴が葛飾北斎に新作小説のプロットを話して聞かせるという設定で始まる。いわばメタ小説としての体裁をとっているわけで、たまにおそらくは山田風太郎一流の作品論が出てきたりして興味深い。
虚の世界、すなわち八犬伝本体の部分に関しても、山風節が冴え渡る。例えば八つの玉が天空に散らばるシーン。オリジナルで
「空に遺れる八つの珠は、燦然として光明をはなち、飛巡り入り乱れて、かくやくたる光景は、流るる星に異ならず*1」
とあるところが
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「おう、見よ、真っ赤な西空に、きらめく光体が旋転している。『飛行物体』は八つあった。それらはしばらく飛びめぐり、入りみだれていたが、ついで扇のごとくひらいて、流星のように北方へ翔び去った」
と訳される。名調子。あと後半を「馬琴の頭もとうとう衰えて、冗長になってつまらなくなった」という理由でバッサリ省略するのもすごい。
★★★★☆
*1……下巻解説より引用