たい風直撃
ぼくの昼食は、ほぼ毎日カレーである。「今日のお昼もまたカレー、明日のお昼もカレー。」である。このフレーズは一流の人がいらなくなったそうなので使わせてもらおう。
だがぼくの場合その理由は、カレーを愛しているから、というより他に選択肢が無いから、というのに近い。(それでも好きじゃなかったらこんなに食ってないと思うが) 何しろ職場周辺の食事どころ事情といったら、そのカレー屋以外には、マイナーチェーンのコンビニが1軒、1食1000円以上するブルジョワ喫茶や中華料理屋が数軒、といった惨状なのだ。ぼくは昼食に700円以上は出せない。これは信条のようなものである。そしてコンビニは夕食で利用することにしているので、結果として昼は毎日カレーなのだ。
もしもこのカレー屋が潰れたり、店員に嫌われたり、値段が3倍になったりしたら、ぼくはもうこの町では生きていけない。すると会社にいられるかどうかも危うくなる。そんな気持ちでカレーを買い続けて、早いもので、もう5ヶ月が経った。最近では、ぼくが入店しただけで、いつも選ぶカレーとトッピングが用意されるまでになった。
しかし、そんなぼくとカレーとの蜜月時代を揺るがす大事件が起こった。いつものように、カレーを持ち帰ってデスクで食べていると、ぼくは見慣れない具材が入っているのに気付いた。その2cm程度の小さな黒い物体は、福神漬けのようでいてちょっと色がちがう。まあ、立ち食いそばやなどでは、しばしばうどんにそばが1本混入したりする。気にすることもないだろう。
と思いつつも、なぜだか妙な胸騒ぎをおぼえてよーく調べてみると……。
触覚が2本。
足が6本。
節足動物だ。
イヤアァァァァァーーーーッッ!! 昆虫キライ! キモイヨー! と思わず席を立ち、取り乱しそうになる心をじっと押さえ、心にナウシカを上映すること2分。……。ラン、ランララランランラン……。
よし、もう大丈夫。虫だけ脇にどけて、残りのカレーを完食。この漂白無菌社会である日本に暮らしていると、虫や菌に対する過剰な嫌悪感が形成されるものだが、一昨年の夏に地中海でひと月あまりをすごしてから、ハエ等の虫に対する耐性は随分ついた。何しろあの地域では、食事どきのテーブルの周りには、常にハエが3匹以上は飛んでいるので、食べるときに食べる部分だけ払って食べるようになるのだ。日本の都市ほど、清潔で便利で快適で過ごしやすいところはない。
広告
それに、タイではゴキブリさえ食用にするというではないか。それに比べれば、なんだ虫こんな虫。(それがゴキブリであるという可能性には目をつぶって)
そうか、それでこれ、『タイ風カレー』なのか。タイ風どころか、とんだハリケーンだぜ。
この件以来、ぼくはタイ風カレーを食べられなくなった……。と言いたいところだが、相変わらず食べている。なぜなら、他のカレーは黒っぽいので、虫が混入していても気付かないからだ! みんなもカレー虫には気をつけろよ!