ドラマ『ふたつのスピカ』の感想
唐突ではあるが、今日はNHKドラマ『ふたつのスピカ』について書く。
良いものを見た。丁寧に作りこまれた脚本、絶妙な演出、生き生きとした若手俳優陣とそれを支えるベテランの演技。
ふたつのスピカ
『ふたつのスピカ』は、NHKで平日木曜の夜のジュブナイルドラマ枠で放映された連続ドラマである。
広告
舞台は近未来の20XX年。国産有人宇宙ロケットの成功に向けて設立された、国立宇宙学校に通う高校生達が主人公だ。
『電王』ゼロノス役の中村優一が出るから、と何気なく見始めたものが、すっかり引き込まれてしまった。全七回の連続ドラマだったのだが、後半では恥ずかしながら涙腺がゆるみっぱなしであった。これは泣ける映画ランキング上位の『ニューシネマパラダイス』や『グリーンマイル』以上だ。
ドラマは、「宇宙飛行士になる」という夢を叶えるために集まった高校生が、互いをライバル視しながらも、少しずつ友情や恋愛感情を育んでいくストーリー。こう書くと、「夢は必ず叶う」という、空疎なメッセージ性のみで逆に有効に伝わらないありきたりな道徳ドラマになってしまいそうだが、このドラマは違った。
夢を叶えるというテーマ
「努力した、才能もある、それでもかなわないこともある。だからそれを夢というの。」
この台詞は、主人公達に対して、先輩である現役宇宙飛行士が送った言葉である。小学生に向けてなら、「夢は必ず叶いますよ」と言っておけばいいかも知れない。しかし、現実はそうではない。
このドラマの大きなテーマの一つは、「夢は必ずしも叶うとは限らない」というものだった。それは確かにそうだ。誰もがどんな夢でも叶えられるとしたら、今頃世界はロックスターと宇宙飛行士であふれ返っている。おそらく少年少女向けのドラマの枠で、こうしたある種現実的なテーマを掲げたところに、このドラマが大人の鑑賞にも十分に堪え、又真に感動的な物語に仕上がった一因があるのではないだろうか。
青春
「夢を語ることを格好良く描きたい」。そんな思いを持ってこのドラマは撮影されたそうだ。確かに、夢を熱く語ったりする姿には暑苦しさと気恥ずかしさがある。しかしそういったことを格好悪いものとして、万事クールにそつなく生きることを是とするような昨今の風潮で思春期の世代までもが夢を見たり語ったりすることが出来なくなってしまってたとしたら、そんな社会から何が生まれるだろう。正直言って、「宇宙飛行士になりたい」という主人公達の夢自体にはぴんと来ない部分もあったが、それに向けてひたむきに頑張る青春の格好良さと格好悪さについては、全7回という制約の中で非常にいきいきと描写されていたと思う。
また、青春と言ったら夢と同時に忘れてはならない、「恋と友情」についても、丁寧に描かれていて共感が持てた。恋も、夢と同じく叶うとは限らないキラキラと輝くものである。このドラマの登場人物達もそれぞれ誰かに恋をしているのだが、それがまたハチクロ的片思いの連鎖で、誰の恋も叶わない。だがそれがまたいい。
叶わない恋の切なさ、思春期の格好悪さについては、フチュウヤ君の演技にMVPを与えたい。
「頼むから行けよ! 好きなら好きって言ってこいよ。お前見てると、誰かみたいでイライラするんだよ!」
大人だって青春する
このドラマは一応若年層向けと言うことになるんだろうが、主人公達の親世代も丁寧に描かれていた。特に高嶋政伸と田辺誠一の大人の友情と夢、最初は冷たい大人に見えた佐野先生が実は誰よりも熱く生徒と夢のことを考えていたりなど、大人達の見せ場もたくさん記憶に残っている。子供達へのメッセージに託された、大人へのエールとも感じられた。大人だって夢を見るし、青春するのだ。(だって考えてみれば作り手大人だし、「いいドラマを作りたい」っていうのも夢以外の何者でもないだろうしね)
最初は生徒に対して「周りはみんな敵だ。蹴落とせ」としかいっていなかった佐野が、最後の授業で語った台詞がこれだ。
「夢や憧れを持つことは素晴らしいことだ。だが、その夢や憧れが大きければ大きいほど、リスクも大きく、実現させるのは難しい。だから負けないでほしい。周りと思いっきりぶつかって、強くなってほしい。残念ながら、ここにいる全員が宇宙飛行士になれるわけではない。ただ、今、自分たちの周りに、本気でぶつかりあえる、夢を語り合える仲間がいることを誇りに思え。そして、そんな大切な仲間に、容赦なく勝て。以上。」
この「容赦なく勝て」という言葉を書いてくれた松居さんには心から感謝しています。本当に素晴らしいセリフだと思います。
『ドラマスタッフブログ:NHKブログ | ふたつのスピカ | 「ふたつのスピカ」折り返し地点をむかえて』
夢を叶える
夢は見なきゃ始まらない、夢を諦めなければきっとかなう…。
歌で、ドラマで、昨今いくらでも夢の大事さが語られる。しかし、どんな夢も諦めなければかなうかというと、そんなことはないのだ。
このドラマはそんな現実を我々に改めて突きつけるが、死が逃れられないから生が輝くように、夢もまた叶わぬ夢があるからこそまばゆく光り輝く。
友の死を乗り越えてなお、夢を目指した主人公が、最後に「夢を叶えるために一番大切なものは何ですか?」と問われて、満面の笑顔で放つ一言。
「夢を見ることです!」
このすがすがしさ。青春が胸に痛い!
(中村優一については稿を改めて書きます)
(興味を持たれた方は、NHKオンデマンドに登録する(月額1470円)、NHKにDVD化リクエストを送る、動画サイトで探す、veohなど…)