続・「危ないですから」

2009年10月23日 金曜日

先日の記事『変な日本語「危ないですから」』に、id:kanimasterさんからトラックバックをいただいた。

広告

「危ないです」 のように、「形容詞 + です」 という表現は、文法的に間違った用法ではない。上記リンク先の主張の根拠として、以下の MSN 相談箱の回答欄が引用されているが、これに至ってははっきり 《間違い》 といって良いだろう。
(略)
昭和27年以前はこの表現が 「許容」 されていなかったかのような回答だが、全くそんなことはない。以下、戦前戦後の名作文学から実例を挙げてみよう。
「形容詞 + です」という日本語の用法について – 蟹亭奇譚

として、近代日本文学から豊富な引用をもって説明してくださっているのだが、つまりは

  1. 「形容詞 + です」は話し言葉としては昔(明治期)から使われていた
  2. 今ではごく自然な表現になった
  3. アナウンスでは分かりやすいほうが良い

ということか。これはこれで理解できる。僕も会話や口語文でのこの使い方を否定するわけではない。もちろん、実際使うこともある。

国語審議会とか広辞苑とか、そういったものが言葉の意味や用法を定義する根拠には、その時代の言葉の使われ方が考慮されているはずだ。
言葉は時代と共に変わる。それによって辞書に新しい言葉が追加されることもあれば、ある言葉に違う意味が追加されることもある。

昭和27年の国語審議会というのも、すでに「形容詞+です」という表現が広く使われていることを考慮して「許容」の判断をくだしたものだろう。しかしそれはあくまで許容であって、文法的な正しさを保証するものではない。id:kanimasterさんが引用されている実例も、全て会話文である。それらはあくまで「この用法は昔から会話、口語としては使われていた」ということの証明にはなれど、「文法的に間違った用法ではない」かどうかとはまた別の問題ではないだろうか。

とはいえ、いずれは「正しい」となる可能性もある。古文と「現代文」とで使われている文法には、かなりの違いがある。ではその境目はどこだったのかというと、誰にも厳密な定義は出来ない。言葉として使われているうちに何十年、何百年とかけて少しずつ変化していったのだろう。それと同じく、この「形容詞+です」も、いずれは正しい文法活用として定着するのかも知れない。

ただ、3点目。アナウンスでそういった崩した口語文法を使うのはいかがなものか、と思うのだ。アナウンスは呼びかけではあるが会話ではない。 もし「キケン」より「アブナイ」のほうが分かりやすいとしたら、「あぶないので」で良いのではないだろうか。
「3番線に電車が参ります。危ないので、黄色い線の内側にお下がりください。」

いずれにせよ、「形容詞+です」が、かなり昔から広く使われているものだった、というのは勉強になった。引用されている作品の半分は読んだことがあるが、特に違和感をもって覚えていなかったのは、それだけ会話文として自然だったからだろう。
さてid:kanimasterさんとは4年くらい前からたまにブクマでの関わりはあったが、こうして直接やりとりをするのは初めてである。わずか数日(当日?)で、これだけの引用をもって記事を構成したid:kanimasterさんには、読書家としての年季とブロガーとしての良心を感じた。(たまにはこういう展開もブログ的で面白いですね。)

ちなみに、「です・ます調」については知らないが、「であります」という軍隊口調は、長州の方言だったと何かで読んだことがある。維新後、陸軍が長州閥で閉められたので、自然と陸軍用語になったとか。


この記事の評価は:

うーん…いまいち…ふつうですかなり良い素晴らしい (3 投票, 平均値/最大値: 5.00 / 5)
読み込み中...

コメント / トラックバック 8 件

  1. Kaz Says:

    はじめまして。先日つぶやきを紹介頂いてありがとうございます。
    ANAに乗って大阪から東京へ向かっているときの機内での放送で
    葉加瀬太郎がパーソナリティで自分の曲を紹介するチャンネルがありました。
    葉加瀬太郎は、「であります。」を連発してました。
    軍隊口調なんですね。
    葉加瀬太郎は意識してないでしょうけど。

  2. 南江の人 Says:

    だーかーらー
    よく読むと「危ないです」は「危ないです『ね』」とか「危ないです『よ』」とか「危ないです『から』」などの省略文なんです。最後の部分がいずれになるのかは文章によって異なりますが、省略であるかぎり問題は起きません。
    仮に「だ」=「です」という形式であるのなら、「危ない(の)です」になります。
    ですが、此方の形式では「危ないので、黄色い線の内側まで」という文に変化します。語呂が悪いんで。

  3. 宮本 Says:

    >Kazさん
    こちらこそ、ご紹介いただいてありがとうございます。
    今、葉加瀬太郎の出身地を調べてみましたが、特に山口県だったりするわけでもないようですので、どっかで知ってなんとなく普通の丁寧語として彼の中で定着してしまったんでしょうかね?

    >南江の人
    えぇと、「ね」「よ」「さ」は単なる間投助詞であって、省略してもしなくてもこの話とは関係ありませんよね。
    「省略であれば問題ない」というのもちょっとよく分かりませんし、そもそもここでの論点は「危ないですから」がおかしいのでは、というものですので。

  4. 南江の人 Says:

    うーん、既出話題になっちゃいましてそこから先が思いつきませんでした。

    「危険ですから」を「危険『であるの』で」や「危険『なの』ですからに変換して
    パースエラーを機械的に避けようとすると煩くはならないでしょうか? というものです。
    『なのです』が『なのだ』と同義で文中では特にやかましい表現であることぐらいしか今は言えません。
    また、省略を避けた言葉はどれもこれも文語に近くなります。聞いていて取っつきにくいのかなあと。

    「間投助詞」を話題に持ってきたのもこのためで、言葉をあえて正確な表現を避けたとしか……
    すみません。出直してきます。ありがとうございました。

  5. 宮本 Says:

    確かに「あぶないですから」と「あぶないのですから」はニュアンスが変わってしまいますね。
    「危険ですから」はいいんですよ。「名詞+です」なので。

    僕の主張は「危ないので、」もしくは「危険ですから」のどちらかにせよ、というものなので、はい。

  6. kanimaster Says:

    あの記事は半日くらいで書きました。

  7. kmns Says:

    あけがたのラヂオで鹿兒島驛で脱線事故のニュース、怪我人がゐませんでしたといったので驚いて目がさめてしまった。それからパソコンのスイッチを入れて、日本語が危ないといふ入力してここに辿りついた次第。九十九式といふのが氣になってゐます。

    99式といふローマ字のことはローマ字相談室(海津知緒)
    http://www.halcat.com/index.html
    のローマ字資料室(訓令式系統)のところにリンクがありますが、今行ってみるとリンク切れ。ついでながらローマ字資料室(ヘボン式系統)の最後にある擴張ヘボン式は小生の主張。御高覽給はらば幸甚。

    以上名刺を差し上げるやうなつもりで一筆啓上

  8. 宮本 Says:

    サイト名を九十九式としたのはかれこれ十年も前のことで、2004年に提唱された99式ローマ字
    とは無関係なのですが、なんだか親近感を感じてしまいますね。
    ただ少し調べてみたところ、あまり評判はよろしくなかったやうで、
    (99式ローマ字は新種のヘボン式か http://xembho.s59.xrea.com/kakimono/99siki.html )提唱したものの定着には至らないと考へて削除してしまったものでせうかね。學會のサイト自體は存續しているので。http://www.roomazi.org/

    擴張ヘボン式、興味深く拜見いたしました。
    ところでwarning「ワーニング」は、私も非常に氣になります。年末になると、近年は「~賞」を「~アワード」と言ふのを耳にする機會が増えていて、いちいち氣になってしまいます。

コメントをどうぞ

コメント
Follow me on Twitter