『パーナさん事件』は現代の口裂け女だ

先日、東京都内で「パーナさん帰宅困難事件」という事件があった。
これは、Twitterと現実がリンクして発生したネット事件である。

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時間のある方には、↑この辺のまとめでも見てもらうとして、忙しい方のために概要を説明する。

パーナさん事件の概要

「パーナ」というのは、ジャニーズの男性アイドル”NEWS”のファンの呼称である。
先日土曜日にNEWSは野外イベントを行ったのだが、豪雨の影響により中断、翌日に延期となった。（午後8時）
日帰りのつもりだった「パーナ」達が、翌日のイベントに参加したいので帰宅せず都内に残留する。
ファン同士のツイートで「行くところがなくて困っているパーナさんを助けて下さい・拡散希望」という流れが始まる。
「コンビニ、スーパーはパーナさんに無償で食べ物を提供してあげてください」など内容はエスカレートし、都会は危ないから気をつけよう、という注意に尾ひれがついて事実であるかのように拡散され始める。
曰く、
・新宿に100人規模のレイパーが集まっている
・7台のレイプ車が東京を走り回っている
・警察に保護してもらおうと思って付いていったらニセ警官で襲われた
・タクシーに乗ったらニセタクシーで襲われた
・連絡つかないパーナさん5人、行方不明2人、連れ去られた4人以上
・連絡つかないパーナさん50人、行方不明20人、連れ去られた40人以上（増えてる）
・過呼吸に効く薬と騙されて覚せい剤を打たれた
・パーナと分かるやホームレスに襲われて服を切り裂かれた

などなど、ここはゴッサム・シティかヨハネスブルグか、という東京の治安の悪さが浮き彫りになった。んなわけはない。

なんというか、思考力や常識的判断の備わっていない中高生にネット（Twitter）を与えるとこんなふうに暴走してしまうんだなあ、と。
中学校でコンピュータ関連の授業をやるとしたら、操作や利用法系の話以上に、こういうリテラシー系の話を強化したほうがいいのではないかと思った。

不確かな内容がRTされる過程

あ、でもこの青山学院の人は少なくとも大学生なんだよなぁ。（強調筆者）

１．青山学院の学生がツイート

【拡散希望】
@luv2o38
渋谷周辺にいるパーナさん、明日の朝、休みたかったりメイクしたかったら、表参道まで半蔵門線で来て、青山学院使ってください。朝の9時頃から開くはず。ベンチ、きれいなトイレ、コンセントあります。勝手に入って平気です。
回して回して!

２．別の人がリツイート

@Smeng_bot 28m
朝になったら青山学院使って良いらしい。フォロワーさんからの情報です。拡散して欲しいのあったら言って。少しだけでも協力するから。元ツイもRTします それで、もういっかい。 朝になったら青山学院使えます。#パーナさんに届け

３．リツイート量にちょっと不安になる

@luv2o38
大学の設備の件ですが、あくまでも、今回の騒動に巻き込まれてメイクや着替えや安全に過ごすための場所がない、というパーナさんのための提案です。
その他の方は入れないと思います。というか学校に確認はまだ取れてません。

４．許可はとってないけど多分大丈夫

@luv2o38 【拡散希望】
ごめんなさい、確認不足だったのですが、明日は日曜日なので12時にならないと開かないかもしれません(;_;)
トイレ、ベンチ等利用できると思うので、確実に利用したい方は12時以降に来てください!
利用できるのは恐らく女性だけです、警備員いますので。

５．どんどんトーンダウンする

@luv2o38 34分
正式に許可が下りていないのでなんとも言い難いですが、トイレや、安全な場所は確保してくれると信じています、以上です、

６．我に返る

@luv2o38 18分
ちょっと落ち着いた、我に返ってきた、ほんと、一回寝ます、パーナさん無事であれ。お願い。おやすみ。

これ、自分が普段通っているキャンパスが普通に入れるからって、思いつきで投稿しちゃったんでしょうね。
RTされたら思いのほか拡散されてしまって、だんだんトーンダウンしていって、最後は寝てる。（寝て起きたら完全に我に返ったようでアカウント削除）

で、こういう拡散の常として、広まるのは最初の「青山学院は開放されている」という部分だけで、その後の「確認取れてません」「許可がおりてないけど…」といった部分は広まらない。

「デジタルネイティブ世代」のコミュニケーションはヤバい

ひとしきり顛末のまとめを眺めて「バカだなあｗｗｗ」で笑ってたんだけど、なんかこの話の通じなさと広まり方はヤバいのではないか、と思い始めた。

「デジタルネイティブ世代」のコミュニケーションについて、小飼弾氏がこんなことを言っている。

勝間　 私がNHKの『真剣中年しゃべり場』という番組に出てすごく怒ったのは、いきなり「若者は最近コミュニケーション能力がない、それは携帯メールのやりすぎだから」という意見が出てきたからです。

小飼　実は、これほどコミュニケーション能力を持った世代というのはいままでなかった。
旧世代と若者は、地球人とサイヤ人(漫画『ドラゴンボール』に登場する人種で、屈強な体力を持つ)くらい違いがあるんです(一同爆笑)。
彼らがコミュニケーション能力がないと言ってるのは、地球人のミスターサタンがサイヤ人の悟空を見て「お前弱いな」って言ってるようなもので…
勝間和代「目立つ力」インターネットで人生を変える方法 小学館｜「αブロガーへの道」座談会前文掲載 3/3″

これ、サイヤ人の説明が「屈強な体力を持つ」ってどうなのよ…というのはおいといて、こんな単純な話ではないと思う。

要するにコミュニケーション能力の中でも、やりとりをするソケットだけ異常に発達しているけど、肝心のコミュニケーションの中身や判断力や常識が伴っていないのではないか。

流言飛語というのは、昔からあった。関東大震災のときなんかにも、色々な流言が飛び交った。でも高度ネット社会では情報の量だけ飛躍的・加速度的に増加しているから、いちいち１つずつ吟味していたら処理しきれない。とりあえずRTで回すので、何かのきっかけで情報があっという間に暴走してしまう。
それに加えてこの「ニセ警官がパーナさんを拉致」「100人のレイプ魔がパーナさんを狙って集結」などの荒唐無稽さは、流言飛語よりもむしろ「都市伝説」のそれに近いことに気づいた。
「口裂け女に」とか「赤いくつ履いてた女の子」等のいわゆる「怖い話」だ。
口裂け女の話は、1979年の春から夏にかけて子どもたちの口コミで日本全国に広まっていったそうだ。

しかし現代のTwitterを使ったコミュニケーションでは、口コミの伝播速度が半端じゃない。一夜で東京は魔界都市に姿を変えた。もしこれがあと２～３日経っていたら、東京は身長５ｍの巨人がパーナを貪り食って闊歩し、自衛隊と米軍が共同作戦を展開する世紀末都市に変貌していたことと思う。
NEWSのイベントが３DAYSじゃなくて本当に良かった。

都市伝説が一晩で生まれる時代

かくして、現代は「都市伝説が一晩で生まれる時代」となった。この拡散に加担した「パーナさん」達は、動機がイタズラや嫌がらせではなく、彼女たちなりの善意と義憤だから始末におえない。「 まわさないあなたも加害者ですよ。」という不幸の手紙のような脅し文句のついたRTもあった。
警備員の写真を流して誹謗中傷をしたり、青山学院開放という嘘を拡散したりするのは、紛れもなく「悪事」なのだが、彼女たちは自分たちが加害者になっている自覚もないし、おそらく少なからぬ「パーナさん」たちは、これらのデマをデマと気づくことなく、「東京で私たちの仲間がひどい目に遭った」と信じたまま日常生活に戻っていくのだろう。暗澹たる気持ちになる。

ちなみに口裂け女の話が夏で収束したのは、子どもたちが夏休みに入ることによって、学校での口コミ拡散がなくなったからと言われている。
Twitterの「拡散」はむしろ夏休みになって加速こそすれ止むことはない。

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2013年7月29日 月曜日 at 23:55 コメント、トラックバックを受け付け中です。
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