100日後に死ぬワニが火葬された件

2020年3月24日 火曜日

イラストレーターのきくちゆうき氏が、自身のツイッターで毎日更新して人気を博したWeb4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』。死の気配など微塵も見せない、動物人間たちの何気ない日常を淡々とほのぼのと描いて、「さあ最後はどうなるんだ…」と注目を集めるだけ集めて100日後の最終回に、無事(?)ワニくんが死ぬが早いか、「書籍化決定!」「映画化決定!」「グッズ販売サイトオープン!」と矢継ぎ早にぶち上げて、そのプロモーションに電通系の人が絡んでいることも分かって「ふざけんな、俺の涙を返せ!」と大炎上。死んだワニくんは火葬に付されてしまったのでした、というお話。

この企画については、Twitterをたまにしか見ないのでついつい忘れてしまって、いつも1ヶ月分くらいまとめ読みをしていたので、話が徐々に進んでいくワクワク感を味わえず個人的にはいまいち乗れなかったけど、ネタとしては良くできていて面白いと思う。毎日更新で少しずつ話が添加していくというのは、テキストサイト先史時代に話題になった『絶望日記』を思い出す。

なぜワニはこんなに叩かれたのか?

それにしても、なぜこれほど『100ワニ』は叩かれてしまったのだろうか? いろいろな理由が考えられる。というか叩かれる要素が多すぎて迷うくらいだ。

「さあ、皆さんお待ちかね!死にましたよー!」

日本では、葬式よりも前のお通夜に喪服で現れると、「死ぬのを待っていたみたい」ということで、逆にマナー違反とされる。『100ワニ』の場合は、お通夜よりも前に臨終の病室に鳴り物入りの宣伝カーで乗り入れて、ギンギラのパーティー衣装でチラシをばらまき始めたような風情である。元から好きではなかった人はおろか、好きだった人の気持ちも逆なでする愚行と言えるだろう。追悼ショップとか悪ノリし過ぎだろう、と。

「個人で頑張ってるから応援してたのに」

なんかお世辞にも万人受けするともうまいとも言い難い絵を描くイラストレーターが、個人のTwitterでほそぼそと続けている感じ、それが地味で朴訥な主人公ワニくんのキャラクターとあいまって、好感を持たれていた部分はあると思う。しかしそれが、いちばん大事な最終回の直後から「書籍化決定!」「映画化決定!」とはしゃぎ始めたので、「結局、金かよ」「最初から電通案件だったのか」と、これまでの印象が良かっただけに、一層叩かれてしまったものと思われる。

「よりによって電通が死を商売にするのか」

電通といえば過労死事件が人々の記憶に新しいところ。それが、フィクションとはいえ死をこんな直球で商売にしちゃうの?という反感もあったのではないか。というか電通って基本的にネットでは商業主義の権化か情報操作の巨悪として、蛇蝎のごとく嫌われてるよね。博報堂より2.5倍くらい嫌われてる感じ。

どうすれば叩かれなかったのか?

ではどうすればここまで叩かれなかったのか、だけど…。これはみんな感じていることだろうけど、最終回のあとにもう少し寝かせておけばよかったんじゃないか、としか言いようがない。ファンだった人ならなおさら、しばらくは悲しさや感動?や余韻に浸っていたかったことだろう。それが当日に「追悼ショップオープン!」なんてはしゃがれては台無しというものだ。

商業主義とエンタメ

ただ、僕はこの作者に同情する。「結局はカネ目当てかよ」なんて叩く人もいるが、職業イラストレーターとしてやっている以上、それで金を稼ごうとするのは至極まっとうな話だ。僕はプログラミングが好きで、無償でコードを書くことも楽しいが、やはり仕事として報酬がもらえるほうが嬉しい。というかもらえないと生活できない。

あと、「100日で映画化の話なんてできるわけがない。最初から電通案件だったのだろう」という揶揄の声も聞くけど、これは違うんだろうと思う。作者をかばうわけではなく、みんな電通の力を侮りすぎだ。単純に最初は思いつきで始めたのだろうと思う。30日くらい経って注目が集まってきた頃に、電通の声がかかったのだろう。電通系の中堅プランナーが動けば、60日もあれば映画化、書籍化、グッズ展開ぐらいのことは難なくできる。

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でも、最終回の直後に「映画化」とか「書籍化」とか色々発表したのは、電通の指示ではなくて、作者自身の判断だったんじゃないかなー、という気がする。
この作者が『100ワニ』の前から持っている代表作を見てもわかるが、Webの無料連載だし、どう見ても一般受けやブレイクは果たしづらい絵柄といっていいだろう。そんな鳴かず飛ばずの作者が、やっと掴んだブレイクのしっぽだ。冷静になれという方が難しいだろう。100日間、更新するたびに日々増えていくリツイート、リプライの渦。電通から上がってくるグッズ案、コラボ企画。そんな中、ようやく迎える最終回。よっしゃ、描き上げた!これまで言わずに我慢してきたけど、これですべて情報解禁できる!イェーイ! …そう、読者にとっては、来てほしくなかった悲しい最終回なんだけど、作者側からすると仕事の一区切り、全原稿の入稿が終わったわけで、「オールアップでーす」というわけで、打ち上げに行くような気分なのだろう。

あとは、これまで毎日更新して反響があったのに、急に更新をやめて忘れられることが怖かったんじゃないか、とも想像する。俺もむかーしブログの毎日更新なんてやってた頃、更新を止めるのはとても勇気がいったもんね。

だからあんまり叩かないで見守ってあげてほしい…とは思うけど、これだけは断言する。グッズとかカフェとかは盛大に爆死することだろう。
100日後に死ぬワニは二度死ぬ。


この記事は1時間12分54秒で書きました。

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